保存的治療

1)生活指導
 肥満はSASの最も重要な因子であり、多くの患者は
肥満を伴っています。従って肥満を伴っているSAS患者
に対し、減量は常に考慮されるべき治療法です。
 近年の大規模研究では、10%の減量はAHIを26%
低下させるといわれています。しかし、実際には減量
だけでSASを消失させることは極めて難しいです。
 通常の仰臥位での就寝時には舌根部が重力の影響を
受け、沈下するために上気道(特に咽頭部)が狭小化
します。狭小化が著しくなるといびきが出現し、最終的に
閉塞するとSASが出現します。側臥位ではこの舌根部の
沈下が起こらないため、上気道の狭小化が起こりにくく、
従ってSASも軽減する可能性があります。
 アルコール・睡眠薬はいずれも上気道の筋肉群の活動性を弱めるため、睡眠時に上気道の狭小化をもたらします。従って、就寝前の飲酒や睡眠薬の服用はできるだけ控えた方がよいです。

2)NasalCPAP 
(経鼻的持続陽圧呼吸 Continuous Positive Airway Pressure)
 一定圧(5-15cmH2O程度)を加えた空気
を鼻から送り込むことにより上気道の閉塞
を取り除き、睡眠中の気道を確保する方法
です。夜間酸素飽和度が低下する症例では
酸素投与必要となります。無呼吸の改善効果
は劇的であり、適切な圧設定によりほぼ完全
に無呼吸を改善させることができます。
しかし、毎晩機械を装着する煩わしさ、
鼻マスクから大量の空気が送り込まれる事
から生ずる不快感、医療保険の負担
(3割負担で5000円/月程度)に対する金銭的
問題、月一回の定期受診が、労働年齢に
おいての患者の割合が多いことにより本治療
を敬遠される原因となっていることがあります。
一般的なコンプライアンス(継続率)は
約6-7割程度といわれています。


【NasalCPAPの適応基準】

『厚生労働省の健康保険の適応基準』
@ポリソムノグラフィー(PSG)検査でAHIが20以上、かつ覚醒時の眠気
  などの自覚症状がある場合
A簡易検査(アプノモニタなど)でAHIが40以上、かつ覚醒時の眠気など
  の自覚症状がある場合

『世界的なコンセンサス』
@AHIが30以上(無条件)
AAHIが5以上30未満で、かつ覚醒時の眠気などの自覚症状、合併症があれば適応となる

3)口腔内装置
 口腔内装置には下顎を前方に移動して
固定する装置と、舌を前方に保持する装置
があります。前者はMAD
(Mandibular Advancement Device)や
SleepSplint、後者はTRD
(Tongue Retaining Device)などと呼ばれて
います。TRDに関しては実際に使用される
ことは少なく、有効性・有用性に関する知見が
十分でないと考えられています。
 セファログラムの解析から明らかになったSAS患者の頭蓋・顔面や上気道の形態異常をまとめると次のようになります。

@頭蓋底、上顎、下顎の各レベルで顔面の前後径の減少
A下顎骨の後退あるいは狭小化
B舌面積、特に口腔外舌面積(舌下半分)の拡大
C軟口蓋面積の拡大
D下部鼻咽頭腔〜中咽頭腔に及ぶ上気道径の狭小化
E中咽頭腔の延長

 口腔内装置は上記のようなSAS患者の上気道の形態に影響する解剖学的な構造異常を装置によって矯正させる構造となっています。下顎とともに舌を前方に牽引して固定し、後下方に押し出されていた舌を口腔内に納めて舌根部の気道を拡大します。さらに装置で下顎が前方へ移動すると、おとがい舌筋の呼吸性筋活動が増大し、気道内陰圧による舌の引き込みを防止するという、機能的な有効性も指摘されています。
 有効性においてはNasalCPAPに劣るものの、コンプライアンスはNasalCPAPを上回っており、患者にとっては治療を続けやすいことが報告されています。
 この治療の長所は、治療が比較的簡便であり可逆的で携帯性もよく、治療効果に対する経済面で優れている点です。副作用の点においても、初期には顎関節部分の違和感や疼痛、咬合不全、歯痛が認められますが、徐々に減少して一ヶ月以内にはほとんど消失することが多いです。
 日本では平成16年4月より保険適応になりました。

【口腔内装置の適応基準】
@軽症SASで減量や睡眠時の体位変換による治療が困難な患者
A中等度〜重症SASでNasalCPAP治療を拒否するか継続できない患者
除外基準
 @重篤な呼吸不全状態
 A治療が困難で口腔内装置を維持するのに耐えられないような不良
   歯牙の存在(治療可能な場合は、治療後に口腔内装置を適応)
 B治療が困難な歯周炎
 C顎関節の障害
 D鼻呼吸が不可能な程度の鼻閉(まず鼻閉の治療を優先)
 E重度の扁桃肥大(手術を優先)

4)薬物療法
 現段階では、ほか療法の補助的な治療手段としての位置づけです。
様々な作用機序を持つと考えられる種々の薬剤がSASの治療に用いられてきたが、いまだに明らかな臨床効果が実証されたものはありません。
 アセタゾラミド:現在我が国でのみSAS治療薬として保険適応が認めら
          れています。腎からの重炭酸イオン排出を促進して
          血液pHを下げ代償性に呼吸を促進します。今までの
          報告によると十分な効果を発揮するのは約半数程度で
          あり、中等度以上の患者での有効率は低いと考えられ
          ています。
睡眠時無呼吸症候群のページ
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 閉塞型睡眠時無呼吸症候群に対する治療の第1選択の治療はNasal CPAPnasal continuous positive airway pressure)です。一般的にSASの程度が重症で、日中傾眠をはじめとする臨床症状が強いほどNasalCPAPは有効で、患者はその効果を自覚することができます。よって中等〜重度のSASに対する治療法としてはNasalCPAPが最も確実な治療であると考えられます。しかし、SASが軽度〜中等度で自覚症状があまり強くない症例に対するNasalCPAP治療のコンプライアンス(継続率)は、必ずしも良好でありません。(一般的に6-7割程度)NasalCPAPでの有効性は認められているものの、様々な理由で治療中断することが少なくないため代替治療が必要となってきます。

NasalCPAPに替わりうる治療としては耳鼻科的手術(UPPP:口蓋垂軟口蓋咽頭形成術)、歯科的治療(口腔内装置)があります。歯科的治療の方が非侵襲的であり簡便です。その簡便性のゆえに我が国でも急速に普及しつつあります。

しかし、NasalCPAPも歯科的治療も根治療法ではなく、あくまでも対症療法であり、治療を中断すれば再び臨床症状が出現してくるため、患者には減量をはじめとする生活習慣の改善指導が必要であることは言うまでもありません。

外科的治療

1)気管切開法
  下咽頭部での狭窄が著しい症例、重篤な呼吸不全を呈して緊急の
  治療を要する症例に対して行います。

2)軟口蓋形成術 (UPPP:Uvulo-Palato-Pharygoplasty)
  口蓋垂と扁桃を摘出、切除し中咽頭部の過剰粘液を切除し、短縮
  縫合するもの。有用性はAHIの50%以上を改善として判定すると一般
  的に約50%です。改善群でも時間の経過とともに、無呼吸が再発
  あるいは増悪する場合もあります。そのため欧米では手術療法が
  第一選択とならず、もっぱらNasalCPAP治療が主体となっています。









3)扁桃摘出術
  小児のSASの原因のほとんどはアデノイド増殖・口蓋扁桃肥大に
  よるものであり、手術治療により非常によく改善します。成人でも
  中等度以上の口蓋扁桃肥大で、軟口蓋長が正常範囲(35mm以下)
  の例では口蓋扁桃摘出で十分に中咽頭腔が開大し、いびきや
  無呼吸は改善します。高度肥満例ではNasalCPAP治療と減量が
  第一選択ですが、口蓋扁桃肥大を合併している場合には、扁桃
  摘出術を優先し、術後のSASの残存程度でNasalCPAPを考慮する
  こともあります。

4)鼻内手術
  鼻閉例では、呼吸障害の改善のために、あるいはNasalCPAPを適正
  な圧で実施するために、鼻腔の通気性を改善しておくことが大切です。
治療




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